|
■「20億か、安いじゃないか」
この時の御前会議で私は、あまり視聴率は取りないけれどもNHKが放送しているマイナーなスポーツを別表にして提示した上で、会長にお伺いを立てました。
「(あまり削ってもカネは減らないので)国内の“義理モン”ソフトは止めなくてもいいですよね」
一部マイナースポーツは、「義理モン」ソフトと呼ばれており、コンテンツとしては非常に魅力に欠けていましたが、政治家が競技団体の会長など、要職を務めているケースも多く、中継放送を打ち切ると、必ず、その方面から「圧力」がかかってくるという、なかなか厄介なソフトなのです。会長の返事はこうでした。
「国内モノを切ると、いろいろとうるさいから、そのままでいい」
その後、「NHKが、今保有しているソフトの質・量をこのまま維持していけば、支出額は年間平均で20億円ずつ増えていくことになる」という話になりました。すると、こともなげに会長はこう言ったのでした。「20億円か、安いじゃないか」
そこで御前会議は終わり、結局、買収費用はスポーツ以外の別のセクションから捻出されました。要するにNHKという組織は、どこからでもカネをひねり出せるのです。
巨人戦を購入する話は、01年の9月に開かれた会合で、海老沢会長が渡辺恒雄オーナーに持ちかけられたもので、後日、ナベツネオーナーが、スポーツ紙の取材に対して、「海老沢君は非常に判断が早く、わずか15分で決めてくれた」と答えているのを読みました。
「スポーツの連中に(契約交渉を)まかせると、いつも高く買ってくるから、自分が行く」と、自ら値段の交渉を買って出たNHKの理事は、わずか5試合の地上放送権を約8億4000万円で購入する契約を結んできました。1試合単価がじつに約1億7000万円にもなる、桁外れに高い買い物でした。
当時の東京ドームの巨人戦は8000万から高くても1億円程度が相場でした。事実、「阪神―巨人」戦や「中日―巨人」戦といった、甲子園球場やナゴヤドームでの試合を、NHKはこのころ約9000万円で購入しています。1億7000万円は、いくらなんでも高すぎるのです。
■企業防衛
値段もさることながら、私は別の意味でも、この契約の不可思議さを感じていました。当時はまだ“発展途上”だったBS放送のソフトとしてならば受信料の増加が見込めますので、たしかに巨人戦はそれなりの投資効果があったでしょう。しかし、いまさらNHKが地上波で巨人戦を放送するメリットはありません。当時、巨人戦はCS放送(現在の「G+スポーツ&ニュース」)が、それこそすべての主催試合を試合前の練習風景までサービスして放送しているわけですから、コアなファンを獲得するのは難しい状況でした。高い上に効果も見込めない。
契約を結んだ翌年、私はスポーツ放送権の契約担当者に尋ねました。「××さん。BSで流せなかったら意味ないでしょう。何でこんなに高いんですかね」
すると担当者は、ニコッと笑いながら私にこう言ったのです。
「ハナちゃん(=立花氏の愛称・編集部注)、これは「企業防衛」なの。NHKがおカネを払う、読売はNHKの悪口書けない。すなわち「企業防衛」。読売1000万読者は大事・・・・・」
それを聞いて「ああなるほどな」と合点がいきました。
たしかにNHKと読売との関係はこの頃から現在に至るまで「良好」です。ご承知のとおり、昨年夏からNHKでは不祥事が頻発していますが、他紙に比べると、読売新聞のNHK不祥事報道は扱いが小さいのです。
もう一度、57ページの一覧表をご覧ください。もしもNHKが純粋な民間企業であれば、私はこのようなやり方で“企業秘密”を明らかにはしなかったでしょう。
しかし、公共放送の経営トップが、およそ公平とは思えない判断基準でプロスポーツの球団にカネをばらまく。その結果、流れたカネの多寡が、球団の強さに影響を与えかねない事態を現実に生じさせつつある。そして繰り返すまでもなく、このカネの原資は、視聴者の皆様からいただいた受信料なのです。国民の皆様にも、そしてもちろんNHK職員の方々にも、その意味を考えてもらいたいと、今回、あえて私はこの資料を公開する決意をした次第です。生ぬるいやり方では、この組織は変わらないと思いますから。
名ばかりのコンプライアンス委
冒頭でも申し上げたとおり、私は7月31日付けでNHKを退職しました。
退職を決意したのは、不正を誘発しやすい甘い経理システム、赤字番組について追及されない組織の体質、しかもその問題の本質を認識すらできないNHKにほとほと愛想が尽きたからです。
昨年夏の横領事件発覚以後、私はこうした状況を少しでも変えようと、信用できそうな上司や、腹を割って話せると思っていた同僚に、しばしば自分の思いをぶつけてみましたが、彼らの多くは賛同してくれるどころか、次第に私から遠ざかるようになりました。
今年5月には、コンプライアンス(法令遵守)推進委員会に、経理操作や裏金作りの実態について訴えてみましたが、2ヶ月以上も放置されたあげく、「すでに編成局が調査に入っており、(あなたの訴えは)コンプライアンスの調査対象とはならない」という旨の電話が1本かかってきただけでした。
橋本会長が口にする「業務改革」は、口先だけなのでしょうか。
つい最近、私のもとにNHKの責任審査委員会から連絡がありました。
私とはかつて週刊誌に実名で登場し、2002年のソルトレークシティー・オリンピックで現地経理担当をつとめた際に、NHKが保有する余った入場券を売るなどして「裏金」を作った事実を告白したことがあります。審査会は「その件で処分を行うから、NHKに来局してほしい」ということでした。
上司の命令とはいえ、実際に行為に加担したのは事実ですから、処分は処分として甘んじて受け入れようと思っています。
しかし、NHKがどんなに「改革」を口にしようと、これまで私が説明してきたような、「本来の決算の役割をほとんど果たしていない」経理システムを根本から改善しないかぎり、今後もNHKが同じことを繰り返すのは火を見るより明らかです。
経理の現場にいた者として、このことをいま一度強調して、本稿を終えたいと思います。(文中一部敬称略)
|